第28章 王の裁き

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「はい。椿様は、剣術がお得意ですよね。剣術の教師が産休に入るので、代理をお願い出来ないでしょうか?」 「私に教師になれと?」 龍王の后以外の職に就くことなど考えたこともなかった椿は驚いた。 剣術は元々人間が始めたことで、それを貴人のスポーツとして確立させたのは金龍だ。椿はその金龍だった紫龍から直接指導を受けた経験があるし、銀龍の元に来てからも続けてはいるが、あくまで趣味としてだ。 「人間界では子供達に教えていらっしゃったのでしょう?」 「そうですが、あちらの剣道とこちらの剣術は違います。もっとふさわしい方が――」 言いかけたところで、椿は蘭の本意に気づいた。学校に来て欲しいだけで、肩書きは恐らくどうでもいいのだ。 「三郎……菊が何か問題を?」 「今のところ大きな問題はありませんが、心配な言動は多々あります。我々では気づけないこともあるかもしれません」 「そうですか……」 確かに、この世界で三郎を一番理解出来るのは自分だろう。しかし理解出来たとしても助けられる自信はない。そもそも家族を捨てた父親に、今更息子に会わせる顔などない。椿が悩んでいると、蘭は言った。 「彼はもうあなたが記憶している人間の子供ではなく立派な貴人ですし、あなたも彼と一緒に暮らしていた頃とは別人でしょう。新たに教師と生徒として出会ってみてはいかがですか?」 「父と子ではなく……ですか」 「ええ。そもそもこの世界では、父親なんて子供が生まれたことさえ知らないのが普通ですからね」
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