第28章 王の裁き

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女と貴人は決まった相手ではなく、複数と交わる。その結果生まれてくる子供は、2人の愛の結晶ではなく社会全体の宝だ。もちろん調べれば誰の子かはわかるが、必要ないので特定はしない。子育ては集団で専門機関が行うからだ。 「今すぐ決断する必要はありません。正式にお願いに上がるまでゆっくりお考え下さい」 「はい」 しかし独りで考えていても決断出来そうにない。蘭を見送った後、椿は部屋に戻って銀龍を待ったが、食事の時間になっても来てくれなかった。 「何かあったのかな」 広い世界を管理しているのだから、予告なく出掛けることは珍しくない。しかし側近に確認すると城内にはいるようだ。 「先程黄龍様がいらっしゃいまして、大事な話をなさっているようです」 「そうですか」 仕方なく、椿は銀龍に頼らず自分でじっくり考えてみることにした。 「三郎……」 親子で過ごした遠い日々を思い起こすと、小さな手で竹刀を握り、真剣な表情で振り下ろす三郎の姿が脳裏に浮かんだ。剣道の基礎を教えたのは自分だが、父親らしいことは大してしてやれなかった。今からでも間に合うなら、何かしてやりたい。 「やってみるか」 もう息子と呼べない三郎を、教師として支えたい。いつか正体がばれるかもしれないが、その時はその時だ。逃げずに三郎と向き合おう。椿はそう決心した。
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