第28章 王の裁き

9/20
前へ
/962ページ
次へ
「冗談じゃないよ」 山吹は城と反対方向に駆け出した。 「小鳥さん!」 呼ばれて現れたのは人間の感覚では小さな鳥ではなく巨大な猛禽類だった。山吹が足を掴むと鳥は巣のある木に戻った。 「ありがとう」 鳥を放すと、山吹は木の洞の中から剣を探り出し、正面に構えた。そして大きく息を吐き、空中に素早く転送紋を刻んだが、完成する前に消えてしまった。すぐに最初からやり直したが、やはり上手くいかない。 「落ち着け」 黄龍が消されたなんて信じられないが、さっきまで黄龍の結界に守られていた鳥の巣の周辺には激しい風が吹き荒れている。 「黄龍、本当にもういないの?」 泣きそうになった山吹は頭を振った。黄龍がいないなら、頼りになるのは黄二しかいない。今は彼の元へ行くことだけを考えるべきだ。 世界の果ての壁の向こうに飛ばされた日、助けに来てくれた黄二は、山吹を城に送り届ける前に自分の家に連れて行った。そして自分はこれから戦士達の城に行く、もしまた僕の助けが必要になったらここに来なさいと戦士の城への転送紋を教えてくれた。その時に携帯機器に記憶させたり壁面に刻んだりせず、必ずこれで空中に刻めと渡された剣を握りしめ、山吹はもう一度慎重に転送紋を刻んだ。 「出来た!」 しかし空中に刻んだ紋は長くは持たない。山吹は急いでその中に飛び込んだ。
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

227人が本棚に入れています
本棚に追加