第28章 王の裁き

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「ホンマにすみません。せやけど勝手によじ登ってくるの振り落とさず連れて行ったんで、無事ではいると……」 「当たり前だ。三郎を殺すわけがない。俺の考えが浅かった。お前達には話しておくべきだったな」 顔を見合わせて首を傾げた2人に、一郎は三郎の父親について説明した。 「ほな三郎以外は用無しいうことですか?」 「いや大人しく従えば歓迎してくれるだろう。だがそうでなければ消す。黄龍を消して妻に報告させたのはそういう意味だろう」 「ふざけたこと言うな!」 黙って聞いていた山吹は急に立ち上がると四郎が止める間もなく一郎の席に飛んでいった。 「あんた達に最後通牒する為に黄龍が殺されたなんて冗談じゃない。黄龍があんた達以下だなんてあり得ない。黄龍は……黄龍は……」 山吹は泣きながら一郎の胸を叩き始めた。一郎は黙ってしばらく叩かせた後、突然山吹を抱きしめた。 「なっ……放せ!」 「私はまだ、黄龍以下ですか?」 「は? 黄龍は黄色い国の長だぞ。あんたみたいな男だか貴人だかはっきりしないような奴に――」 「私の匂い、よく嗅いでみて下さい」 龍人は泣いても鼻水は出ないが、悲しみと怒りが山吹の感覚を鈍らせていた。それで気がつかなかったのだが、言われてみればいい匂いがする。山吹は突っ張っていた腕の力を抜いて素直に一郎の胸に鼻を埋めてみた。
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