第29章 新たな長

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黒二は、四郎の前にかがみ込み顔を覗き込んだ。五郎以外見ていなかった四郎が突然現れたゾッとするほど美しい顔に驚いて呼びかけを中断すると、黒二は更に顔を近づけて、値踏みするようにじっと四郎を見つめた。その顔には表情がなく、何を考えているのか全くわからなかったが、四郎は彼に縋った。 「助けて下さい。彼、黄色い龍の肉食べたら苦しみ出して――」 すると黒二は視線を五郎に移して黄二に尋ねた。 「肉……黄二、君が与えたのか?」 「いえ。黄龍の龍と対話していた者が投げ渡した肉を食べました」 「対話していた……成功後に取り出した肉ではなく、戦闘中にそぎ落とした食に適さない肉か? しかも最強の黄色い龍の。なんと無謀な」 「無謀て――あの肉食べたらアカンかったってことですか?」 黒二は、必死に問いかける四郎に視線を戻して尋ねた。 「君はその男の妻ではないようだが……その男が死んだら困るのか?」 「困ります、どうか助けて下さい!」 縋る四郎に背を向けて、黒二は黄二に指示を出した。 「私が暫定的に黄色い国の長になった。この者達も私が引き受ける。黄二、君は黄龍の妻を連れて王宮へ行け。銀龍様がお待ちだ」 黒二が長にだけ許された王宮へ直行する転送紋を描き出すと、黄二は不安そうな山吹の手を取った。 「黄二さん!」 四郎は思わず呼び止めたが、黄二は四郎と目を合わせることもなく黙って転送紋の中へ消えてしまった。
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