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もう頼れるのは黒二しかいない。四郎は再び彼に縋った。
「お願いです。助けて下さい」
「君達は餌場を荒らし龍を殺すのだろう? よくそんな図々しいことが言えるな」
「仰る通りです。でもお願いします。どうか命だけは――」
「命だけ……君はその意味がわかっているのか?」
黒二は四郎の顎を人差し指で持ち上げて目を合わせた。そして答えることが出来ず、ただ涙を流す四郎に告げた。
「選択肢をあげよう。一つは、この男をこのまま放置する。もしかしたら自力で回復するかもしれない。もう一つは、今この場でこの男の心身を健全にする。最後の一つは、もうこれ以上苦しむことのないよう――」
「2番目でお願いします!」
殺すと言われる前に、四郎は答えた。
「本当にいいのか? 健全になるというのは元通りになるという意味ではないぞ。むしろ逆だ。この男は君が知っている男とはまるで別人になる。君のことも忘れる。それでいいのか?」
「え……」
四郎は戸惑い、五郎に視線を戻した。五郎はまだ苦しみ続けている。落ち着く様子はなく、むしろ悪化しているようだ。
「一つ目を選んだら……彼が生き残る確率て……」
問われた黒二は、五郎を触診した。
「消化出来ない肉が熱を持ったままだ。助かる可能性はほぼゼロだな」
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