第29章 新たな長

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「そんな……」 選ぶ余地など最初からない。それなのに選択を迫られた四郎は頭を抱えた。 「私がここに来たのは君達の相手をする為ではない。黄二を王宮へ送り、境界の壁を強化する為だ。完成するまでに答えを出せ」 早くしないと五郎は本当に死んでしまうかもしれない。でも一郎なら救えるのではないか、自分達を見捨てるわけがないから、一郎はきっと戻ってくる。 (そうや、あの龍を食べて金の龍人になって……一郎さん!) 祈るように天を仰ぐ四郎に向かって、黒二は冷たく言い放った。 「いずれにせよ、君はもうこの男と共に生きることは出来ない。君は貴人として保護される。君自身に関しては、選択肢はない。あくまでその男にとって最良の道を選ぶことだ」 「え、そん――あっ!」 四郎の首に、黒い輪がはめられた。例の奴隷の首輪だ。四郎は反射的に手を掛けたが、外れるわけもなく、手に痛みが走った。絶望した四郎に、黒二は容赦なく選択を迫った。 「今君の目の前で死ぬか、君に一縷の希望を残してここで死んでいくか、生まれ変わって生きるか、この男にとって最良の選択はどれだ?」 四郎に決断を促しながら壁に向かって手を伸ばした黒二は、大きく息を吸うと全身に力を込めて衝撃波を放った。黄土色の壁がみるみる黒く変色して行く。一郎が助けてくれることを信じてここに残していくべきだと思っても瀕死の五郎を放置する決心がつかぬまま、時は過ぎた。壁を一面黒く塗りつぶすと、黒二は再び四郎に選択を迫った。 「時間だ。さあ、どうする?」 今すぐ殺して貰えば五郎はもう苦しまなくて済むが、それではもう何の希望もない。でもここに残して行っても結局死んでしまうならその方が残酷な気もするし、助けて貰っても別人になるなら死ぬのと変わらない気もする。考えれば考える程どれも最悪に思えてきて四郎が答えを出せずにいると、黒二はため息をついた。
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