第30章 黒い国

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第30章 黒い国

黒二と話した後、黒龍は黒百合を呼び寄せて彼の言葉を伝えた。 「そういうわけで、あいつのことは諦めろ。なんなら俺が――」 「これ以上食事の相手を増やしたら奥様に叱られますよ」 伸ばした手を避けられた黒龍は、フンとため息をついて黒百合に尋ねた。 「じゃあ誰にするんだ。食わなきゃ生きていけないぞ」 「今は考えたくありません。失礼します」 黒百合が一礼して出て行こうとすると、黒龍は大きな声を出した。 「あ、そうだ! ちょっと待て」 黒百合が立ち止まって振り向くと、黒龍は頷いて従者に命じた。 「さっきの男をここへ連れてきてくれ」 従者はすぐに黒い男を連れて来た。それは記憶を失った五郎だった。 「色々あって、こいつの中身は今からっぽだ。黒百合、おまえ面倒みてやってくれないか?」 「どういうことです?」 「分不相応な龍の肉を食べて死にかけていたのを、黒二が助けてやったそうだ。それにな、黒二から預かった龍から肉を取り出してる所に臆せず入って来て自分で食っちまったらしい」 「黒二様の龍を?」 黒二の名を聞いた黒百合は、五郎に近づき匂いを嗅いだ。 「確かに黒二様の匂いがします」
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