第30章 黒い国

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「黒二が言い聞かせて預けて行っただけで譲り受けたわけじゃないが、貴人を1人養うこと位出来るだろう」 「え、自分の龍は……」 「うん、まあ……だからその……ちょっと色々あってな」 「色々って一体……」 「もちろん他に気に入った男が見つかったらそっちに行って構わないが、俺はこいつには見所があると思っている。黒二の命で大人しく沼から這い出ていたとはいえ、黒二の龍だ。並の男じゃビビって近づけないし、食ったら死にかねない。黒三だって気を抜かないように集中して作業していた。その隙に、ダーッと駆けて行って食っちまったんだ。大した奴だよ」 黒百合は、黙って黒龍に肩を抱かれている五郎を見つめた。五郎の方も黒百合を見ていたが、その目には何の感情もなかった。 「からっぽって記憶がないってことですか? 会話は出来るのですか?」 聞かれた黒龍は直接本人に確認した。 「おいおまえ、しゃべれるのか?」 五郎は黒百合から黒龍に視線を移したが、何も答えなかった。その目はうつろで、困惑すら感じていないように見えた。 「ダメみたいだな。こいつの腕についてる端末で教育係と相談して教えてやってくれ」 「もう決まった教育係がいるなら私は必要ないでしょう」 「いや黒二もいなくなっちまったし、今ウチの男達は忙しいんだよ。毎日ほんの少しでいいからこいつの相手をしてやってくれ。そうするならこいつと一緒に今まで通り黒二の家に住んでいてかまわない。な、頼むよ級長」 そう言われたら断れない。黒百合はため息をついて五郎の手を取った。 「承知しました。来なさい」
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