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黒百合は五郎の胸に触れた。そこにあったはずの薔薇の花は黒い肌で消されてしまったが、感じる場所であることは変らず、五郎はビクンと背を反らせた。
「そんなに動いたら外れちゃうよ。意外に敏感――ちょ、ダメだよ、止めなさい」
従順だった五郎が急に襲いかかってきた。黒百合は慌てて逃げようとしたが、五郎は彼を放さなかった。ただでさえ力の強い男が興奮してしまってはもう手がつけられない。
「わかった、わかったから。君を侮って悪かった」
黒百合が自ら服を脱ぎ優しく口づけると、五郎は少し落ち着いた。その間に素早く計器を外すと、黒百合は五郎に抱きついた。
「ああ、黒二様の匂いだ。ねえ、黒二様に何してもらったの?」
言葉の意味はわからないはずなのに、五郎は黒二にされたように黒百合に濃厚なキスをした。そしていつも四郎を抱いていたように黒百合を抱いた。
「慣れてるね。君……妻がいたんじゃないの? それも忘れちゃった?」
まるで意味を察したかのように五郎の瞳が揺れるのを見た黒百合は、そこに恋人を失った自分の悲しみを重ねた。
「俺も忘れなきゃな」
笑ったつもりだったのに涙がこぼれ落ちて、黒百合は横を向いた。五郎はその頬をやさしく包んで押し戻し、そっと涙をぬぐった。
「優しいんだね。ねえ、早く忘れさせて」
強く抱きつかれると、五郎の胸の奥に封じられた記憶がほんの少し漏れ出てきた。
こうしてる時だけや
五郎ちゃんに抱かれてる時だけ安心出来る
なあ、もっと抱いてや
激しく求める四郎に答えた夜のように、五郎は黒百合の中に入り、彼が満足して眠りに就くまで抱き続けた。
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