第30章 黒い国

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三郎は黒百合が黒二と暮らしていたことを知っている。誰にも聞かれずに一日を終えてほっとしていたはずの黒百合は、三郎の心配そうな顔を見て心が揺らいだ。黒百合は目の前に立った三郎に触れる程顔を近づいて囁いた。 「俺と話をしたいならウチに来ない?」 「え……行ってもいいの?」 「ああ。菊は大丈夫?」 「うん」 「じゃあ行こう」 2人は校門前の転送ゲートから黒い国へ向かった。そして黒龍の城を素通りしようとすると、呼び止められた。 「おい」 振り返ると黒龍が腕を組んで立っていた。黒百合は、黒龍のいつになく険しい表情に戸惑ったが、三郎は臆せず挨拶した。 「はじめまして。黒百合さんと同じクラスの菊と申します」 黒龍は、ぺこりと下げた頭を戻して真っ直ぐ自分を見上げる大きな瞳をしばらく黙って見ていたが、フンと頷いて彼に近づいた。 「俺はこの国の長、黒龍だ。よく来たな。来たからには、見せたいものがある。こっちへ来い」 黒龍が背を向けて歩き出すと、三郎は問いかけるように黒百合と目を合わせた。 それまでにも何度か学友を連れて来たことはあるが干渉されたのは初めてで、黒百合も益々戸惑っていたが逆らうわけにはいかない。黒百合は三郎の背を押して頷き、三郎を連れて黒龍について行った。
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