225人が本棚に入れています
本棚に追加
/962ページ
「赤い谷?」
「昨日一郎さんが出した龍の餌場や。植物も動物も、皆真っ赤らしいで」
三郎は、一面赤く染まった谷を想像してみた。
「ふーん、綺麗そうだね」
「アホか。紅葉とちゃうで? デカイムカデとかハエとかおるんやて」
虫が嫌いらしい四郎は自分で言った言葉に鳥肌を立てた。
「餌場の掃除って、龍はもういないってこと?」
「ああ、おったとしても子供やろうて」
ムカデやハエは三郎も好きではない。ムカデと戦うくらいなら、留守番の方がいいかもしれない。そう考えながら部屋の前に戻ると、四郎は言った。
「早う武器取って来い」
「え、いきなり早朝稽古?」
「他にすることないやろ」
「飯は?」
「中庭に井戸があったやろ。あの水飲んどけ」
「ええ!? それだけじゃ――」
言いかけて、ふと気付いた。そう言えば、腹は減っていない。
昨夜夕飯も食べずに家を飛び出して以来、何も食べていないのに。
最初のコメントを投稿しよう!