第30章 黒い国

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カンナは頬杖をついて困った顔をしたが、すぐに姿勢を正して言った。 「黒二様が敵を追い払って境界の壁を強化したから、その問題はもう解決したのよ。もしまた攻撃を受けるとしたら、もう男の人でもどうにも出来ないわ。龍王様にお任せして、失敗すれば敵の手に落ちるだけよ」 カンナの口調が冷静だったので、三郎は平常心を保ったまま聞き返した。 「敵の手に落ちるって、どういうことですか?」 「外の世界からきた男が王になるってことよ。良い人だといいわね」 「はあ?」 カンナが到底理解出来ないことを言っているとわかった三郎は、身を乗り出して叫んだ。 「攻撃してくる敵が良い人のわけないだろ。なんで平気な顔してそんなこと――」 目を見開いて訴える三郎にカンナは平然と微笑みかけた。 「王になればもう敵ではないわ。前にもあったのよ。先代の龍王様は侵略してきた男だったの。変わり者だったけど、悪い人ではなかったわ。でもあなたが思う悪い人と私が考える悪い人は少し違うかもしれないわね」 カンナは、益々理解出来ず固まってしまった三郎の頬を撫でて続けた。 「私は今の世界に不満はないけれど、これが唯一絶対だとも思わない。外から来た王が新しい世界を造れるのなら、そこで生きてみたいわ。ただ問題は……彼が敵である間に、再生不可能な破壊をもたらす危険があるってことよ」 「ええ!? じゃあやっぱりやっつけなきゃダメじゃないですか!」 「やっつける……ねえ。あなた、その敵と戦いたいの?」 その質問は、記憶を封印されてもなお三郎を支配していた欲求を自覚させた。
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