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『あれ、赤二そこにいるのか。菊がウチに来てさっき帰って行ったぞ』
『え、菊が黒い国にお邪魔していたのですか?』
『ああ、学校帰りにウチの貴人の所で遊んで行った。おまえ、知らなかったのか?』
『はい、大変申し訳ありません、あの――』
『心配するな、ちょっと話をしただけで俺は何もしてない。赤龍がどう思うか知らねーがな』
それで慌てて戻ったが、城に赤龍の姿はなかったので、まず菊の無事を確認しに来た。そして菊の体に変化はなく特に何か気付いた様子もないことに安心していると、カンナが言った。
「勝手に黒い国に行ったことについては私が話したから、叱らないであげて」
「ありがとうございます。あの兄上は……」
「谷にいるはずだけど……何かトラブルがあったみたいで心配なのよ」
それを聞いて赤と黒の龍の知覚に集中してみると、目には食べかけの獣の姿しか映っていなかったが、龍の鳴き声が聞こえてきた。獲物を威嚇する声に近いが、もっと深刻で荒々しいその声を聞いた赤二は両手で菊の肩をつかんで言い聞かせた。
「ごめん、ちょっと谷の様子を見てくる。今日はもう部屋で大人しくしていてくれ。いいね?」
「う、うん……」
三郎が渋々承諾すると、赤二は赤い谷に向かった。すると暢気に食事しているのは赤と黒の龍だけで、他の龍達が皆緊張して見守る中で、最強の赤い龍と赤龍が対峙していた。割って入れる雰囲気ではない。赤二が来たことにはもちろん気付いているだろうが、目もくれない赤龍を見詰めながら、赤二は少し離れた場所で様子をうかがっていた我が子ではないが自分のものである赤い龍に一体何が起こっているのかと問いかけた。
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