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「それはダメだ!」
龍に応戦しながら、赤龍が叫んだ。
「そうか……黒龍の奴、おまえとその子を奪う為に菊を――」
「いえ兄上、黒龍様はそんな策略をなさるような方では――」
「なら黒二、おまえか」
谷底に向かって赤龍が叫ぶと、一斉に赤い龍が飛び立つと同時に谷を更に深く刻む亀裂が走り、そこから黒い龍が舞い上がって来た。
その姿に最強の赤い龍でさえ怯んだ瞬間、赤龍はその首に深く爪を差し入れ取り出した肉を喰らいながら赤い龍に告げた。
「見ろ、変な奴が来た。あいつのものになる位なら、俺の方がいいだろう?」
赤い龍は答えなかったが、赤龍が刃で深く傷つけた体を撫でて癒やしてやると訪問者を睨み付けて赤龍を守るようにその間に立った。黒い龍にしては異形の翼を持つ細身の龍の背には、髪と瞳を赤く染めた黒二がいた。
「お招きいただきありがとうございます。ここの甘い香りに酔わないように赤を纏ってみたのですが、変ですか?」
「おまえの見た目になど興味はない。知りたいのはその黒い腹の中だ」
黒二は赤龍が国を開くまで境界で待機していたし、面と向かっている今は若干自分より弱いとさえ感じさせるが、赤龍には黒二の心を読み取ることは出来ない。それはつまり、本当は赤龍と互角かそれ以上の力を持っているということだ。黒二は力を5色に分散させることで上手く隠すことが出来るのではないかと赤龍は考えていた。
「それは……赤龍様と同じですよ。銀龍様の世が長く平和に続くことを願っております」
彼の言葉に半信半疑で眉を顰めながら赤龍は尋ねた。
「で、何の用だ」
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