第31章 密室の男達

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黙って頭を下げ続ける一郎の背中を見詰めながら、金龍は尋ねた。 「その体に、まだ花は咲くか?」 「さあ……わかりません」 「俺が感動する程美しい花を見せることが出来たら褒美として道を開いてやる」 一郎は四郎が読んでくれた先祖の手記を思い出した。その先祖と同じように自慰をして桜の花を見せる覚悟をして一郎は金龍に背を向けて肩から着物を落とした。しかし美しい背中を見せて股間に手を伸ばすと金龍に制された。 「それはもう見た。俺が見せろと言っているのは、あれを越える花だ」 戸惑いながら一郎が振り返ると、金龍は壁を指さした。 「そこに酒がある」 一郎は裸のまま立ち上がり、黄色と白の爪を出して壁の中からボトルを取り出した。中には青い国で飲まされそうになったものよりずっと濃い赤で揺らすと金色の光を放つ液体が入っていた。人間の感覚では飲物に見えない液体だが、眺めていると飲んでみたくなってきた。するとボトルは変形して大きなグラスになり、たちまち部屋中に芳醇な香りを放ち始めた。 「好きなだけ飲め」 言われる前に口を付けていた一郎は、一気に飲み干してしまった。役に立たない理性など飛ばしてしまいたかったからだ。そして望み通り盛りのついた獣になった一郎は、金龍に抱きつきキスを繰り返しながら言った。 「早くくれ。アンタの力を、アンタの全てを俺に――」 「俺になりたいと?」 「ああ、なりたい。アンタに。金龍に」 「ふーん、俺はおまえの憧れの(ひと)ってわけか」
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