第31章 密室の男達

13/17
前へ
/962ページ
次へ
それは金龍の最後の后の葬儀の日のことだ。 葬儀には各国の要人と生前后と交流のあった者達の他に各国から選りすぐられた貴人達が出席した。龍人界には喪に服すという慣習はなく、妻を亡くした男は1日でも早く新たな妻を持つべきだと考えられているので、葬儀直後に貴人をかき集めて乱交しても誰も責めないし、位の高い男性の場合むしろ周囲は安心する。 しかし葬儀の後、金龍が部屋に連れ帰ったのは貴人ではなく黒二だった。 黒二も妻を亡くしたばかりだったので、貴人達と楽しむよりも気持ちがわかりあえる男と静かに過ごしたいのだろうと思いながらついて行くと、実際、部屋に入って金龍が最初に口にしたのは、黒二の亡き妻の名前だった。 『芍薬(しゃくやく)もいい貴人だったな。黒に黄色、そして赤い花が咲いた肌は、実に美しかった』 黒い国、黄色い国、赤い国の三国が接する地に、国境を超えた芍薬の群生地がある。それぞれの国土で咲く花はその国の色だが、同じ花がまとまって咲くのは世界でも稀なことだ。その影響で、自国の色の花だけでなく他国の色の花を肌に咲かせる貴人が時折生まれるのだが、黒二の妻だった芍薬は、中でも珍しい3色の花を咲かせる貴人だった。 龍王の目であればその気がなくてもうっかり見てしまうこともあるが、恐らく金龍は意図的に自分と彼の食事を盗み見たに違いない、芍薬が生きていたら后候補として奪われていただろうかと黒二が考えていると、金龍は黒二の唇を指先で撫で始めた。黒二は、男を抱くのは嫌いではないが抱かれるのは好きではないし、相手の方から触れられるのがそもそも苦手だ。それを表情に出さないようにじっと耐えていると、しばらくして金龍は頷いて指を離した。 『唇を赤く出来たぞ。お前、他の色も持ってるだろ。脱げ、全部見せてみろ』 金龍は、黒二が命令に従うのを待つことなく彼を押し倒して服を剥ぎ取り、体中に触れ始めた。すると黒に隠れて赤、青、黄、白の4色どころか僅かだが銀まで出てきた。それを引き出し黒二の肌や髪の色を変えて楽しみながら金龍は感心して呟いた。 『おいおい、どうなってるんだお前の体』 隠していたわけではなく、黒二自身も自覚していなかった。 金龍が龍王になる前に、対抗する金もしくは銀の男を生み出そうとして様々な試みがなされていた頃、確かに黒二は他の色の龍の肉を沢山食べたが、金や銀に昇華することは出来なかった。それは黒に吸収されてしまったからだろうと考えていて、黒二は自分の体を詳細に調べたことはなかったし、優れた研究者である彼を他の研究者が調べることもなかった。だから黒二は、自分が極めて特殊な体であることを、その時初めて知った。
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

227人が本棚に入れています
本棚に追加