第32章 麗しく芳しき妻達

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第32章 麗しく芳しき妻達

黒黄龍が長の仕事と極秘の仕事で忙しい間、四郎はずっと人間を研究する施設にいた。彼はそこで人間界に送り込まれた小動物によって集められた多くの記録映像を見せられた。 テロ組織が建物を破壊して多くの死者が出た 貧しい国で子供が餓死した 文章にしてしまえばたった一行だが、筆舌に尽くしがたい数々の現実だ。被害者だけでなく、テロ組織の集会や私腹を肥やす権力者の醜態といった加害者側も見せられた。それに現在人間が保有している最も強力な兵器が使用されたり大災害によって危険な施設が倒壊するシミュレーションや、このまま環境破壊が進んだ未来の予想図も見せられた。 「こうした事態になれば、境界の壁を越えて有害物質が大量に流れ込んでくるでしょう。そうなれば龍の力でも浄化は困難です」 冷静に話す研究所の職員に、四郎はつぶらな瞳で訴えた。 「せやからそうなる前に人間界を消してしまえいうのはあんまりです。確かに人間はここの人達に比べたらアホやし醜い生き物ですが、ええとこだってあります」 「しかしこのままではいずれ自滅するでしょう。それまで危険を放置するわけにはいきません」 「それで人間界に行くんやったら、消す前に説得してくれませんか? あなた方の圧倒的な能力を見せつけて資料を突きつけて迫れば各国の偉い人達も納得するんじゃ――」 「全員素直に納得するとは思えませんし、納得した所で対処出来るでしょうか。助けてくれとこちらに縋られても困ります」 「え、なんでですか?」 「我々は龍と共に生きています。龍のいない世界では何も出来ません」 「せやったら龍を連れて何人か来てくれたら――」
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