第32章 麗しく芳しき妻達

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「龍が住める環境ではありません。仮に移住出来たとして、人間は大人しく我々の配下に収まるでしょうか?」 何を言っても即座に否定されて困り果てた四郎は、境界の地にある村を思い出した。 「あっ、あの、境界の地に人間の村があるのご存じですか? あそこは――」 「人間界を切り離した後に生まれた変種の隔離区域のことですか? あそこは我々の管理下にあります」 あの村には村の長と施設の職員だけが入れる特殊な場所があり、そこで人知れず定期的に報告を受け、問題があれば職員が対策に当たるという。そして人口が増えないよう調整し、村を拡大出来ないよう不毛の地で覆っているのだという。 「ご存じの通り、境界の地は人間界とは違います。あの区域をモデルに人間界を改革することは出来ません」 またしても否定された四郎は、質問を変えた。 「そんならあなた方は人間界を観察してるだけですか?」 「境界の地で汚染物質が発見されてからは、その解析と除去を行っています。またかつて一度だけ志願した女性職員を人間界に送り込み、彼女が身を挺して伝えてくれた資料を基にした研究も行っています」 「ああー! それ光ちゃんのお祖母ちゃんや。逃げて来はったって聞いたけど、そうやなかったんか……あ、そんなら光ちゃん――戦士やなくて人間界で育った貴人を迎えに来たのもあなた方ですか?」 「貴人を迎えに……? ああ、境界の地を監視していた職員が汚染物質の濃度の急激な上昇に気付いて急行した所、侵入を試みている貴人らしき者を発見して保護したという報告は受けました。しかし汚物を体内から排出するまでこちらに連れて来られないので、境界の地の岩屋に彼を置いて独りで戻った間に逃げられてしまったようです。普通の貴人には破壊出来ない岩屋が真っ二つになっていたので戦士の1人だったのだろうと考えられていましたが、他にも人間界から来た貴人がいるのですか?」
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