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「それで辛くなったりせえへんの?」
「なりません。私達は執着しないように教育を受けて育ちます。例えばこの家も、服も、個人の所有物ではないのです。住む場所も一緒に暮らす仲間も仕事も、定期的に変わります」
「へえ……え、ほな男性と貴人は?」
「一般の男性は妻と龍を連れて各地に移住しますし、職場も変わります。特別色の男性は、この国の場合は黄色い龍が棲む特別な砂漠が国の中心に1つしかないので、その周辺に奥様と共に定住なさいます。彼等は極めて専門的な技術や知識を必要とされる職に就きますので、仕事も一生変わらないことが多いですが、それとは別に国の運営や王都での公職を兼任なさいます」
つまり個性が尊重されるのはごく一部の特別な男性と貴人だけで、驚いたことに女性や一般の男性は番号が付けられているだけで名前はないそうだ。
「えっ、ほな貴人は夫のこと番号で呼ぶの?」
「家では2人きりですから、あなたと呼びかければ済むのではないですか?」
「そりゃそうやけど……俺は男の人の見分けがつかへんのやけど、他の貴人さん達は夫と他の男性間違えたりせえへんの?」
「貴人様は鼻が敏感でいらっしゃいますから匂いで識別出来るはずです」
「え、ホンマ? ほな明日皆の匂い嗅いでみるか」
「それはおやめになった方が……」
「え、なんで?」
目を見開いて首を傾げた四郎を見詰め返した女性はうっとりとため息をついて答えた。
「牡丹様、御自分の魅力を自覚なさって下さい。あなたに匂いを嗅がれたりしたら男性は仕事どころではなくなります」
「へ? あ、あああ……そりゃアカンな」
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