第32章 麗しく芳しき妻達

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「眠りません。その代わり発する光は王都の草原とは比較にならない程小さいでしょう」 「はあ……あ、俺等の城や人間の村の光は……」 「先代の王が上空に設置した装置に王都から転送されています。今ここに降り注いでいる光も銀の草原から直接届いているわけではなく、城の上空に転送されて来たものを増幅して拡散した光です」 しかも草原から全世界、そして城と村に届けられるのは光だけではないという。例えば水も上空から地面に降り注いだ物質が変化して湧き出るらしい。 「詳しいことは私も知りません。特別色の男性は学校で習うそうですが、一般の男性や貴人の方々、まして女性は知る必要のないことです」 「必要ないて……それは……」 差別だとは思わないのかと言おうとして、そういう言葉が龍人語にないことに気付いた四郎は絶句したが、人間界を知る女性はその思いを汲み取って答えてくれた。 「確かにこの世界は厳格な縦社会ですが、上に立つ者は必ず下の者より優れ、その分重大な役割を担っています。私達は彼等を尊敬し信頼しているのです。それにここで最も大事にされているのは龍です。私達は常に龍を優先します」 「なるほど」 納得出来たわけではなかったが、そう答えて食事を終えた四郎は、女性と共に研究所に出勤した。そしてコウモリが送って来た人間界の映像を見ながら意見交換している職員達に加わると、早速質問を受けた。 「何故こんなに意見が食い違ってしまうのでしょう。言葉が通じていないのですか?」 卓上に浮かび上がっているのは都会の街角で、中央に街頭スクリーンがあり、そこにニュース映像が流れていた。2つの国が対立し、噛み合わない主張をするそれぞれの国の首脳の姿が映し出されていたのだが、四郎は思わず目を逸らしてしまった。醜い。見た目の問題だけでなく、身勝手な主張を繰り返し相手の話を聞き入れようとしない頑なな表情も態度も、全て醜い。
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