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「言葉は通じてるはずですが、譲り合うのが下手なんです。人間はどうしても自分の利益を優先してしまう生き物なので」
「それは結局互いにとって不利益になるとは考えないのですか?」
「そう思っても現実に歩み寄るのは難しいというか……相手に優しくなれる程余裕がないんやと思います」
同じ人間だった四郎が恥ずかしくなって俯くと、隣にいた職員が心配そうに顔を覗き込んできた。
「ご気分が優れないようですが、大丈夫ですか? お城に帰られてお休みになっては――」
「ああいや、そうやなくて……大丈夫、元気です」
その時既に体は変化し始めていたのだが、自覚のない四郎はその日も女性職員と共に女性の集落に帰った。すると果物とは違う甘い匂いがした。
「お菓子の匂い……?」
「近くで貴人様がご出産されたのです。行きましょう」
わけがわからず女性に手を引かれて甘い匂いに満ちた部屋に入ると、女性達が集まって楽しそうに菓子を作っていた。
「出産後しばらくは普通のお食事が取れないので、果物やお菓子を召し上がるのです」
「へえ、それを女性が用意するんや」
「はい。ご依頼のメッセージが届くのです」
女性が壁のボタンを押すと、映像が流れ出した。茶色い巻き毛に緑の瞳の貴人がお菓子が欲しいと強請っている。
「可愛いなあ」
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