第32章 麗しく芳しき妻達

13/48
前へ
/962ページ
次へ
(なんやこれ、俺も……死ぬんか?) そしてとうとう四郎もその場に崩れたが、その体が床につくことはなかった。 「(おさ)!」 いきなり現れ四郎を抱き上げた黒黄龍は、跪いた女達に尋ねた。 「その女は、牡丹と交わったのか?」 「はい」 黒黄龍は医師に連絡して遺体を転送すると、女達を労った。 「牡丹が世話になった。後で異国の果物を届けよう。何がいい?」 白桃、苺、ブルーベリー。女達の囁きの中に祖国の果物がないことを黒黄龍が少し寂しく感じていることに気付いた女が葡萄と答えると、彼は笑顔で頷いた。 「わかった。全部届けよう」 喜んで礼を言う女達に見送られて四郎を抱いて城に戻った黒黄龍は、副長である黄三に国を任せて四郎と部屋に籠もると、癒やしの気を送りながら四郎の記憶を辿った。女達の話し声、菓子の甘い匂い、浅ましき人間達の映像、女の温もり、紳士を装っている男達の熱い視線、そして黒黄龍の顔。 「そんなに私が怖いか……」 臆せず接しているように見えたが、本人の中に入ってみると酷く恐れているのがわかる。更に彼の記憶を遡ると、その恐怖を植え付けた五郎とのやりとりを為す術無く見ていた彼の悲しみと絶望が流れ込んできた。フウと息を吐いて遡るスピードを上げて戦士達との日々の更に前、人間界での記憶を5歳まで調べた所で四郎の意識が戻った。 「黒二さん……俺……」 「黒二ではなく、黒黄龍に改名した。後少しだから、じっとしていてくれないか」
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

227人が本棚に入れています
本棚に追加