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四郎が素直に口を開くと、黒黄龍も口を開き、赤く長い舌の先から雫を落とした。つまり唾液を飲まされたわけだが、温度も味もとても唾液とは思えなかった。どちらかといえば温かいスープに近いが、こんなに美味しいスープは人間界にはないだろう。
(アカン、この人めっちゃ美味い。ダメや、きっと一度でも抱かれたら終わりや)
「意地を張って何になる。君が飢え死にしても人間界は救われないぞ」
「飢え死にて……え、俺が倒れたのは――」
「ああ、飢えだ。君はもう食事無しで生きられる体ではなくなった。私を飲んで少し力が戻っただろう?」
黒黄龍は四郎に鏡を見せた。慌てて髪をかき上げて首筋を映した四郎は、戦士の証が完全に消えてただ真っ白な首を見て愕然とした。
「え、なんで?」
「龍を敵だと思えなくなったのだろう」
確かに、もう以前のように龍に向かって斧を振り下ろすことなど出来ない。でもそれは人間界を裏切ることになるのではないか。しっかり働いてこいと自分を送り出した祖父の顔、そして一郎の顔を思い浮かべた四郎に、黒黄龍は言った。
「君の祖父のことは、私にはよくわからない。だが一郎という男は、君が私の妻になることを祝福するだろう」
それに対しては、四郎は何故かと聞かなかった。薄々わかっていたことだ。一郎は初めから自分と五郎をこちらの世界に預けるつもりだったに違いない。
「一郎さん……」
自分が頼りないせいで彼に独りで戦う決意をさせてしまった。そう思うと情けなくて涙が溢れてくる。すると黒黄龍は四郎に映像を見せた。
「彼等には会いたくないのか?」
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