第5章 興奮する体

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「三郎、四郎、そいつは任せる」 一郎はそう言うとまた方向を変えて放たれた次郎の矢をくぐり独り前に出た。三郎は思わず任された方向ではなく、一郎が向かった先に目をやった。すると大きな花の上に人の体の2倍の太さはある巨大な蛇の頭が見えた。 「三郎!」 ハッとして振り返るとそこにも大蛇の頭があった。前方のものよりは小さいが、それでも軽く人を飲み込めそうな太さだ。片目には矢が刺さっているが、もう片方の目は三郎を睨み付けている。三郎は必死に剣を振るい、大きな口に頭を挟まれる前にその喉を裂いた。自分が止めをさしたと思ったが、地響きを立てて落ちた蛇は既に真っ二つに切断されていた。 「気いつけや。こいつ等切っても暫く生きとるで」 四郎は、あれ程嫌がっていた巨大ムカデに斧を振り下ろしながらそう言った。何か自分の獲物になるものがないか探していた三郎は、前方の異変に気付いてそちらを見た。一郎が切り倒した大蛇の体が周囲一体の草木をなぎ倒し、その向こうに太く赤いものが見える。 「あれが井戸の木?」 問い掛ける三郎に、一郎が答えた。 「そうだ。だがおまえは手を出すな。次郎、獣を離せ」 「はい」 よく見ると守るように赤い獣が木を囲んでいる。次郎が矢を打ち始めると、大半の獣はその矢に倒れるか逃げ出したが、何匹かはこちらへ向かって来た。一郎はそれを引きつけてその背を利用して大きく飛び、一人木の前に降り立った。 三郎は獣と戦わず、一郎を眺めていた。その体を捕らえようと木から繰り出される触手のようなものを切り払い、その度に吹き出る赤い水を寸前で避けつつ、一郎は最短距離で幹に辿り着くと、そのまま木を駆け上がり斜め上から刀を振り下ろした。一郎が手にしていた刀はごく標準の長さだったが、その瞬間だけ巨大化したように見えた。木は斜めに2分され、上半分がずるずると落ち始め、それと同時に下から赤い水が噴き出し始めた。
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