第5章 興奮する体

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「この先に、昨日逃した巨大で凶暴な獣がいる。奴は赤い水を吸って、今も力を増し続けている。おまえ達はそいつには手を出すな」 「見学してろって言うのかよ」 「心配するな。他にも敵はいる。退屈する暇はない。俺は奴に気付かれる前に攻撃をしかける。その後について来い。行くぞ」 そう言うと一郎は矢のように走り去り、一瞬の後に異様な鳴き声が響いてきた。草木をかき分けてその方向に走り出た三郎の目に、それまでとは比較にならない巨大な獣の姿が映った。鋭い牙が生えそろった大きな口から赤い液体がしたたり落ちていて、一瞬もう一郎がやられてしまったのかと思ったが、どうやら涎らしい。その唾液に染まった牙も、全身を覆う毛も何もかも赤い、熊のような獣だ。大きな体は鈍そうに見えるが、爪の長い大きな手の動きは機敏だった。 「あれに叩かれたら吹っ飛びそうやな。うわっ、危な!」 一郎が言った通り、退屈している暇はなかった。ムカデや蛇、そして獣が襲ってくる。背後にある井戸の木は、今まで倒した木より太く大きい。三郎は向かってくる敵と戦いながら、井戸の木と、一郎が戦っている獣との距離を見ていた。 (今だ!) 一郎が獣を避けて大きく飛び下がり、獣が後を追って前に出た瞬間に、三郎は周囲の雑魚を蹴散らして井戸の木の前に躍り出た。叱られるのは覚悟の上だったが、一郎は止めなかった。 「三郎突き刺せ、その剣では切れない! 次郎、五郎、三郎に加勢しろ! 四郎、他は全部おまえがなんとかしろ!」 やはり三郎の動きに気付いた獣がそちらへ向かおうとする隙を狙って斬りかかりながら、一郎は指示を出した。いち早く指示に従った次郎が、井戸の木の急所に矢を打ち込んだ。 「そこです!」 一郎と同じように切ればいいのだと思っていた三郎は、一瞬迷ったが、一郎の指示に従って次郎が示した場所に剣を突き刺した。
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