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こんな斬り方をしたら、間違いなく大量の赤い水を浴びている。一郎は先を急いだ。
するとようやく生き物の気配がしてきた。草木が揺れる音、踏みつけられる音、そして獣の鳴き声も聞こえてきた。
「三郎!」
叫んでみたが、返事はない。でも三郎の気配は感じる。
三郎が戦っている獣を引きつけようと、一郎はあえて音を立てて進んで行った。
そして見付けた三郎の姿に、一郎は衝撃を受けた。
白かった着物は真っ赤に染まり、片袖がない。はっきりツメ痕が見える腕も真っ赤に染まっているが、どうやらもう血は流れていないようだ。赤い水の癒しの力が幸いしたのだろう。本人はもう痛みを感じないのか、その傷ついた腕でしっかり剣を握っている。
「三郎、もういい、下がれ!」
しかし三郎は戦いを止めない。傷だらけの体で獣に向かって行く。
一郎は舌打ちして井戸の木に向かった。あの時三郎がしたのと同じ事だ。獣は一郎の動きに気を取られた隙に三郎に斬られ、井戸の木は一郎の刀により美しく2分された。
それは最後の一本だった。その木が死ぬと、谷中に低いうなり声が響き、地が震え始めた。
「三郎、こっちだ!」
一郎は叫んだが、三郎は剣を構えたまま動かなかった。
「何をしている、もう終わりだ!」
「まだいる!」
「ああ、だが倒す必要はない。放っておけばいずれ死ぬ」
「煩い、俺が全部斬る!」
そう叫ぶと、三郎はすっかりボロボロになり鬱陶しく纏わり付いているだけになっていた着物を自ら剥ぎ取った。そして露わになった三郎の上半身に、一郎は息を飲んだ。
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