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滑らかな褐色の肌一面に花が咲いている。
赤の濃淡ではあるが実に様々な色、形、大きさの艶やかな菊の花だ。
「三郎、おまえ――」
花は、袴から覗く脚にも見える。どうやら全身に咲き乱れているらしい。本人はどう自覚しているのかわからないが、異常に興奮していることは確かだ。
止めるのは難しいと判断した一郎は、少し離れて三郎を見守った。すると三郎は、赤い木に向かう生き物を逃すことなく斬り殺して行った。まだ当分使い物にならないと思っていた剣の腕が飛躍的に上達している。剣が体の一部となり、剣先にまで神経が届いているようだ。危なくなったら手を貸すつもりだったが、一郎が腕を組んで眺めている間に全て終わってしまった。
「よくやった、三郎。本当にもう終わりだ」
一郎は、まだ敵を探している三郎に近付き声を掛けた。
三郎の体にはまだ艶やかな花が咲き乱れている。瞳は潤み頬も紅潮している。
しかしその表情は険しく、眉は力強く寄せられたままだ。
「足りない……まだ……」
三郎は一郎を睨み付け、剣を構えた。
「俺と戦え。容赦なんていらない、全力で戦え!」
一郎は、小さくため息をつくと刀を構えた。
「ならついて来い」
一郎が飛ぶように駆け出すと、三郎は走ってついて来た。
(あれだけ戦って、まだ体力が残っているのか)
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