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赤い水の力なのか、三郎本来の力なのか、今は判断出来ない。普通でないことは確かだし、この冷静さを欠いた状態で龍と遭遇すれば危険だ。とにかく早く城に連れて帰らなければならない。
一郎は三郎を翻弄しながら谷の出口に向かい、崖が見えると走りながら刀をふるって投げるように印を刻んだ。そして城に通じる印の前に着くと刀を構え、三郎と対峙した。すると三郎は、すぐ一郎に斬りかかってきた。
「待て!」
刀を構えて三郎の剣を避けながら、一郎は袖から腕を抜いて三郎同様上半身裸になった。
死んだ谷が放つ赤黒い光に輝く一郎の肌を見た三郎は、剣を止めた。
ほどよい筋肉の隆起、刀を握る手に少し浮き出た血管、それらを包む滑らかな肌。
次郎のような中性的な美ではなく、男として完璧な美しさだ。
それを堂々と晒して、一郎は三郎に問い掛けた。
「三郎、よく見ろ。この体、斬り捨てたいか?」
言われなくても一郎を見詰めていた三郎の眉間から皺が消えると、全身に浮かんだ花の色が濃くなった。三郎は剣を下ろし、ゆっくりと一郎に近付いて来た。
「そうだ。こっちへ来い」
刀を腰に戻すと、一郎は三郎に向かって両腕を開いた。
その腕の中まで後一歩という所で、三郎の体が傾いた。
緊張と興奮が一気に解けたらしい。三郎は気を失い、一郎の胸に向かって倒れて来た。
一郎は素早く脱いだ着物を広げて赤い水と血にまみれた三郎の体を抱き留めると、崖に刻んだ印から城へ帰って行った。
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