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一郎は三郎よりずっと背が高い。三郎は、背筋を伸し早足で歩く一郎を小走りで追いかけた。灰色の沼と言うが、灰色なのは沼だけではなく、行く手に見える風景は全て灰色一色だ。遮るものが少ないので近く見えていたが、歩いてみると沼は遠かった。中々辿り着かず、退屈した三郎は、一郎の背中に声を掛けた。
「ねえ、俺、赤い沼で倒れてたって聞いたけど……」
一郎は背を向けたまま答えた。
「覚えていないのか?」
「目が覚める前に戦っている夢を見ていたけど、何処から夢だったのかはっきりしないんだ。俺、赤い谷で少しは戦えたのかな?」
あの時の三郎が、赤い水の力に支配されて動いていただけなのか、それとも力を自分のものに出来たのかは一郎も興味があった。だから三郎一人だけを連れ出した。しばらく黙って考えた後、一郎は静かに答えた。
「戦ったなら、体が覚えているだろう」
そしてようやく灰色の沼に辿り着いた。沼というより固まる前のコンクリートのようで、中がどうなっているのか全く見えない。
「こんな所に、何か住んでいるの?」
「ああ。多分まだ沢山いる」
一郎は沼のほとりに生えている草を一本抜いて静かに沼に差し入れ、すぐに引き上げた。そして灰色の泥水が絡みついた草を三郎に向けた。
「ちょっと触ってみろ」
鼻にツンとくる刺激臭に、三郎は顔をしかめた。
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