第6章 もっと強く

7/37
前へ
/962ページ
次へ
「手が臭くなりそう……」 「男のクセに、随分細かいことを気にするんだな」 一郎に挑発された三郎は、ムッとしながら草に手を触れたが、すぐに離した。 「熱っ!」 一郎は三郎の左手が覆う前に、草に触れた右手を掴むと、用意していた懐紙で泥水を拭った。指は綺麗になったが、まだ火傷したように痛い。 「後で五郎に手を握って貰え」 そう言われて一郎に手を握られたままだと気付いた三郎は、慌てて振り払って抗議した。 「知ってて触らせたのかよ」 すると一郎は平然と答えた。 「この草は沼の水に耐性がある。けれどこの沼の外から来たものは、何であれ溶ける。人も、武器もだ。ここに落ちたら、五郎がいても助からない」 三郎は足元にさっきの草が落ちているのを見て思わず後退ったが、一郎はその三郎より後ろに下がった。 「この辺りが限界だ。ここから根気よく攻撃するしかない」 そう言うと一郎は刀を抜き、沼に向かって真っ直ぐ伸すとヒュンと一振りした。すると刀の先に細い光が走り、沼に小石が落ちたような波紋が出来た。一瞬の後、沼の中から魚のようなトカゲのような黒く光るものが跳ね上がり、宙で爆発した。 「うわっ、今の何? 釣りみたい」 「そうだな。釣り針を投げ入れる感覚でいい。剣先に力を集中させて放つ。やってみろ」
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加