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三郎は、欲望に突き動かされて、渾身の力で剣を振るった。
剣先が光の球で包まれた。光の球はその場でぐるぐると回った後、線香花火のように落下し、灰色の地を削りながら数メートル転がって消えた。
「ねえねえ、今のは?」
一郎は光がえぐり取った地を眺めて答えた。
「いいだろう。だがもう少し力を抜け。あんなに大きくしてしまっては飛ばない」
「えー」
全然足りないと思ったら、今度は強すぎるという。三郎はため息をついたが、もう一度剣を構えた。力一杯。でも力みすぎず。剣が光った。光は今度は大きく膨らむ前に飛び出し、ポーンと跳ねて飛んでいった。
「飛んだ!」
横に逸れてしまって沼には届かなかったが、三郎は喜んで自分も飛び跳ねた。
「よし。剣を両手で構えて、慎重に狙ってみろ」
三郎は頷いて、しっかり両手で剣を握って振りだした。
しかし狙いを定めた筈なのに、また光は沼から逸れてしまった。
「おかしいなあ……」
一郎は、三郎に近付き、背後からその体を包んだ。そして剣を握った三郎の両手に大きな手を重ねて剣先の角度を調整すると、耳元で指示を出した。
「この位置だ。このまま打ってみろ」
背中を覆う温もりと、体を揺らすような低く響く声。
思わず身を委ねたくなる。力を込めるどころか全身の力が抜けそうだ。
それに何だかドキドキする。
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