第6章 もっと強く

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次郎は深く俯いたままの三郎を尚暫く正面から見詰めた後、彼から少し離れてやった。 「よくわからないのは、あなたです。あの一郎様を恐れも敬いもしないのに、私には敬語を使う」 「それは、あなたが敬語で話し掛けるから……」 「なるほど。相手に合わせて、常に対等でいたいということですか」 「ああ……そうかもしれません」 三郎が素直に答えると、次郎は笑った。 「一郎様と対等だと思えるとは、大した自信ですね」 「それは違います。俺は対等でありたいと思っているだけで、全然遠いってことはわかってます。技も力も精神力も、あの人は凄いってことは俺にだってわかります」 三郎は俯いたままだったが、その表情が微かに和らいだのを、次郎は見過ごさなかった。次郎は再び三郎に近付き、肩に手を掛けた。 「三郎」 「な、何ですか」 逃げ腰の三郎の耳に唇を寄せて、次郎は囁いた。 「沼で一郎さんに何をして貰ったの?」 「え……剣の使い方を教えて貰いました」 三郎は答えて逃げようとしたが、次郎は三郎の体を横から両腕で包み、反対側の肩の上でしっかり手を組むと、更に問い掛けた。 「それだけ? 岩陰でキスされたりしなかった?」
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