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葬儀・告別式の日程も教えてもらったが、僕は行かなかった――いや、正確には行くことが出来なかった。  僕の記憶の中にある彼の笑顔を、黒いリボンが掛かった遺影の写真で上書きしたくなかったからだ。  人間とは不思議なもので、本当に悲しくて狂いそうな時は涙も出ない。  あの時の僕は、ただ黙ったままこのカウンターで一心不乱にコーヒー豆を挽いていた。ハンドルを回す手を止めてしまったら、抑えている何かが爆発しそうで怖かったから……。  低い声も、優し気な顔も、真剣な眼差しも、全部――僕の記憶から消してしまいたい。  何も告げずに僕の前から姿を消して、しかも自殺するなんて……。  僕の中では汐里しか存在していなかった。このまま一生、この家で二人で暮らしていくものだと思っていた。  事実、彼もまた、僕を愛していると何度も言ってくれた。一生、離さない……とも。  でも、それは全部嘘で、あれは夢だったんだと思うようにしてこの二年間を過ごしてきた。  若気の至り……そう言い切るには真剣すぎた恋だった。  この世の中で――特に日本国内では同性愛者の理解度はまだ低く、ここ数年は特例を認めている地域も出てきたが、そのほとんどは世間に認められていないのが現状だ。それでも共に生きたい、籍を入れたいと願う人たちは、養子縁組や事実婚をしている。  僕と汐里もそれを考えていた時期だった。僕は母を亡くし、親戚も遠縁ばかりでほとんど身寄りがないと言っても過言ではなかったし、汐里と共に生き、生涯を終えることが出来るのであれば、世間の目など気にすることもないと考えていたし、汐里もまた、自分の家族はゲイに関して寛容で、自身がやる事には口を出すことはないと言い切っていた。それならば思い切って結婚しようか……と、互いの想いが揺らぐことはなかった。  しかし、後から聞いた話では、汐里の父親は全国各地にリゾートホテルを展開する仲谷グループの経営者であり、その息子である彼には見合い話がいくつもあったようだ。次期社長の座を約束され、恵まれた家庭で生まれ育った彼が、なぜ僕のような平凡な男に惚れ、こんな古い喫茶店併用住宅で一緒に暮らしていたのか……意味が分からない。
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