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自身との関係を強要し、時には脅迫紛いのこともした。それでも子供の前ではいい父親であった彼。
彼女もまた命を絶とうと思い、何度か自殺未遂を繰り返したが、死ねなかった。
彼ら家族に最悪のシナリオを突きつけた自分を疎み、恨めしく思い、自分の生を呪いながら数年を生きた。
しかし、一ヶ月ほど前に彼の妻の意識が奇跡的に戻り、彼女の自殺の真相が明らかになったことで、彼女は妻にすべてを話し、深く謝罪した。
妻は彼女を責めることも、慰謝料を求めることもしなかった。なぜって、妻は夫以外の男と関係を持ち、妊娠が発覚したことで、彼への後ろめたさから自らの命を絶とうとしたのだ。今の自分は本来であれば生きることを許されない身であり、彼女のことを責める立場はない……と。
これは悪い夢だった、全て忘れて新しい幸せを掴んで欲しいと懇願され、僕の元を訪れたというわけだ。
不倫相手の彼との思い出が多く 、相手への思い入れが深い分、記憶の根底からのカウンセリングとなるため、それなりに時間が必要となる。
今回のように彼女の記憶が鮮明であれば、該当者との関係が長期間であったとしても、一回四時間前後としても五~十回――週に一回のペースで進行させ、三ヶ月もあれば十分だ。大概のカウンセリングはこれですべて完了する。
しかし、記憶が曖昧で、僕にすべてを話せないような相手の場合は厄介で、クライアントが何かを思い出したタイミングで、少しずつ確実に消していかなければならないため、何年もの月日を要することもある。
今でも、そんなクライアントを数人抱えている。
彼女の場合、今日のカウンセリングで何とか片が付きそうだ。過去に、愛した人にとらわれた苦しい記憶が消える。
彼の記憶を失くしたとき、彼女はしがらみから解放され喜びの涙を流すだろうか。それとも、大切な――もう思い出せない人のことを、体で思い出し、訳のわからない悲しみに暮れるだろうか。
記憶消去を完了した人たちのその後なんて、僕は知らない。
その事には、あえて関与しないようにしている。守秘義務、個人の尊厳、クライアントに対しての配慮を心掛けている。
だけど、本当はそれだけじゃない。
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