music child

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「小説家を見つけたら」というビデオを観た。ブロンクスに住む人たちの心象風景を模したように、マイルスのトランペットが断片的に鳴る。オーネットコールマンのサックスは奔放で、これは混沌やもどかしさを代弁しているのだろうか。 ストーリーが進むにつれてBGMの旋律は、フレーズが長くなる。呼吸が整い、まるで点と点が結ばれていくようだ。後半のover the raimbowなんて、1オクターブの音程で登場人物の心と心に虹の架け橋を爽やかに描いてくれる。ーーー うーん。音楽を言葉で言い尽くすのは難しい。 そもそも音楽が無くても人は飢えないし、でもだとしたら、音楽はなぜ生まれたのだろう。人類はおよそ全ての文化でそれぞれの音楽を手に入れている。 思考や感情は、一つ一つが圧縮フォルダそのものだ。中身を読み込むために私たちは日本語や英語、○○語といった言語ソフトで解凍している。その言語で言い尽くせないものは、体系の網目からこの瞬間も零れ落ちているに違いない。 その点音楽は万国共通だ。言い尽くせなかった雫を掬うことができるのではないか。 と考えてみたものの、普遍的な音楽体系にのっとったクラシックやポップスも手順は同じ。それぞれの思考や感情を音楽言語という解凍ソフトで紐解いた姿だ。誰にとっても聴きやすい曲調ほど、元来の機微はやはり零れ落ちてしまい、陳腐に聴こえてしまうものも少なくない。 圧縮された感情の塊を、ありのまま受けとめたい 始まりは音楽好きな一学生の素朴な疑問だった。 ありふれた体系に頼らずに。 または新しい体系を創る。 現代音楽とも実験音楽とも言える観念的な領域だけれど、その体験で得るのが「心の架け橋」になろうとは、当時想像もしていなかった。
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