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目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。
確か両親と喧嘩して家を飛び出して…
その後の事は思い出せない。
直翔が、今に至った経緯を必死に思い出そうとしていると階段の下から声が聞こえてきた。
何事かと手摺の上から顔を出し、そちらに目を向けてみる。
視線の先にいるのは高校生の男女の様だ。確かに見覚えのある制服を着ているし、周りを見るにどうやらここは体育館裏で、俺が通っている近江高校の敷地内だった。
何を言っているかは聴き取れないが、険しかった男子生徒の顔の緊張がほぐれ、二人の雰囲気も柔らかいものとなったのが見て取れる。今まさにカップルが成立したらしい。
男子生徒は俺が見ている事に気付いたらしく、嬉しそうにこちらに手を振ってくる。
「俺達もう行くから。授業遅れんなよ!」
見覚えのない顔に何の反応も出来ず、ただ眺めていた俺にそう言い残すと、出来たばかりの彼女を連れて彼は教室の方へ行ってしまった。
今は昼休みだったのか。
何をすればいいのか分からなくなった俺は、取り敢えず自分が在籍している3年2組へと向かった。
教室まで来て、気付いた事がある。
一つ目は校舎がなにか古臭くなっているという事。
二つ目はクラスに俺の知っている人がいないという事。
そして三つ目は俺の苗字が何故か、変わっているという事だ。
どうもおかしい。そう思いながら一日を過ごす中で、直翔は自分が一人暮らしをしている事になっている事や、先程のカップルが自分の両親である事を知り、過去へタイムスリップした事にようやく気付く。
直翔は元の時間に戻る事が出来ないまま、『佐野直翔』として暮らしていく事になるのだが、慣れない一人暮らしに戸惑ったり、喧嘩別れしそうになる二人の仲裁をしたりと、ドタバタな毎日を送ることになる――
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