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悪夢
首筋にヒヤリとした怖気を感じて目が覚めた。
そこは色のない世界で、見えるのは薄ぼんやりとした蝋燭の揺らめきと灰色の天井ばかりだった。
体を動かそうとしても、動かない。足の一つ、腕の一つも動かない。体を捩ろうにも動きもしない。ただ目だけが自由だった。
「目が覚めたかね、リフ」
地を這うような温度のない声が呼ぶのに、ビクリと体を震わせる。
感じる嫌悪は計り知れない。この声を知っている。この抑揚も温かさも感じない声を知っている。
会いたくない、見たくない、できる事ならこの世から消えてもらいたい男のものだ。
ヌッと、男が顔を覗き込む。血の気を感じない青白い顔に、こけた頬。眼鏡の奥の瞳は薄青くて気持ちが悪い。パサパサの茶の髪を後ろで一括りにした男は、口元だけにニヤリと笑みを浮かべた。
「この時を待っていたんだよ、リフ。あぁ、やっぱり君はいつ見ても美しい」
「やめろ…」
男がペロリと舌なめずりする。そこだけが毒々しく赤い気がした。
「さぁ、綺麗にしてあげよう。大丈夫、痛みなど感じはしない。丁寧に丁寧に扱ってあげるよ」
「やめろ……嫌だ…」
「君は美しいままに保存されるんだ。眠るように、ね」
男の手から何かが伸びる。男の手がそのまま、毒々しい蛇に変わった。
暴れるように体を捩り手足をばたつかせようとしても敵わない。冷たい何かが逃がさないよう、体を締め付けているようだった。
「さぁ、愛してあげよう」
蛇が大きく口を開ける。噛みきるのかと思えるほどに鋭い牙からタラリと滴る毒。ヒヤリと体の上をくねったそれは、爛々と目を光らせてその鋭い牙をランバートの首へと埋めた。
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