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「うわあ、たまんないですねぇ。混ぜるの私がやって良いですか?」
土鍋には、黄金色にほっくりと炊き上がった栗ご飯。
葉子さんがしゃもじを手にご飯をそっと返してたちまち昇る甘い湯気。
蒸し器では、ぷっくりとした銀杏を添えた茶碗蒸しが出来上がっています。
「悪いねぇ、これじゃ仕事増やしたようなもんだよ」
テーブル席で待つ白井さんの元に、茶碗蒸しと栗ご飯、お豆腐とネギのお味噌汁を運び、私と葉子さんの分も同じテーブルに並べました。
「こーんな美味しそうな栗や銀杏を前にしたら、今すぐ食べずにはいられませんよぉ」
そそくさとエプロンを外した葉子さんは、我先にと手を合わせて「ねぇ」と隣に座った私に視線を送ります。
「えぇ。それに私たちも丁度お腹が空いていましたし。こうして賑やかに食べる食事も楽しいですから」
私も両手を合わせ、白井さんと目を合わせました。
細く、皺の深い、青い血管が浮き出た手を胸の前で合わせた白井さんは「あぁ……うん」と目の前の食事に視線を落として目を細めて。
「誰もいない家でひとりで食べるより、誰かの笑顔を見ながら食べる方がずっと美味しいからね」
そう顔を上げると、三人視線を合わせ――玄関横にあるクッションにお尻を落ち着けてこちらを見ていたぽんすけにも目配せをして。
「いただきます」
すっかり陽の落ちた夕闇の広がる窓の向こうから、ひとひらの柔らかな風が食卓を撫でるように駆け抜けます。
リン
冬以外は吊るしている窓辺の南部鉄の風鈴が音を奏でました。
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