秋晴れの青

11/14
前へ
/123ページ
次へ
「ハルさん」 「あら、白井さん。こんにちは、お散歩ですか」   そろそろ日が沈む頃。 散ってきた木の葉を掃除していると、村に住む八五歳の白井さんが杖を片手にやってきました。 「ほら。これを持って来たんだよ」   差し出された白いビニール袋には、銀杏や栗が沢山。 白井さんはご自身の山にある山菜やキノコ、この季節には栗などをこうして時々分けてくださるのです。 「ひとりじゃ食べきれんからね。ちょうど栗原さん達にもお裾分けしてきたところなんだ」   白井さんは顔の前に手を挙げて「じゃあね」と人の良さそうな笑顔で会釈すると、今歩いてきた方向に身体を返しました。 「良かったらお夕飯食べていきませんか?頂いたもので何かお作りしますし」 「あぁ、いやでも……ハルさん所のお店はそろそろ店仕舞いの時間だろう」 「普段はお昼間の方がお客様がいらっしゃると言うだけで、夜に来ていただいても大歓迎なんですよ?一応、七時までは営業時間にしていますから」   時刻はまだ五時三十分。 十月も終わりの空は、藍色の空に朱いイワシ雲が扇状に広がり、乾いた生ぬるい風が、土手の斜面を鮮やかに染めるコスモスを揺らします。 陰影を浮かび上がらせながら、暮れゆく夕陽を浴びるコスモスの群れは、しっとりと優しい風景に溶け込んでいました。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加