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「ハルさん」
「あら、白井さん。こんにちは、お散歩ですか」
そろそろ日が沈む頃。
散ってきた木の葉を掃除していると、村に住む八五歳の白井さんが杖を片手にやってきました。
「ほら。これを持って来たんだよ」
差し出された白いビニール袋には、銀杏や栗が沢山。
白井さんはご自身の山にある山菜やキノコ、この季節には栗などをこうして時々分けてくださるのです。
「ひとりじゃ食べきれんからね。ちょうど栗原さん達にもお裾分けしてきたところなんだ」
白井さんは顔の前に手を挙げて「じゃあね」と人の良さそうな笑顔で会釈すると、今歩いてきた方向に身体を返しました。
「良かったらお夕飯食べていきませんか?頂いたもので何かお作りしますし」
「あぁ、いやでも……ハルさん所のお店はそろそろ店仕舞いの時間だろう」
「普段はお昼間の方がお客様がいらっしゃると言うだけで、夜に来ていただいても大歓迎なんですよ?一応、七時までは営業時間にしていますから」
時刻はまだ五時三十分。
十月も終わりの空は、藍色の空に朱いイワシ雲が扇状に広がり、乾いた生ぬるい風が、土手の斜面を鮮やかに染めるコスモスを揺らします。
陰影を浮かび上がらせながら、暮れゆく夕陽を浴びるコスモスの群れは、しっとりと優しい風景に溶け込んでいました。
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