秋晴れの青

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またひとつ吹いた風に身体が震えて、窓を閉めました。 遮光性の無い、白いカーテン越しに映る月明り。 「あの日から十一年。十年までも、今思えばあっという間。だけど、ここから十年ももっとあっという間なのかもしれないわね」   部屋のドア沿いの壁で大きく両手を広げた、江戸紫に大小華やかな花が散りばめられた振袖が、月明りにぼうっと浮かび上がります。   十一年目にして、ようやく触れることが出来た過去。 それなのに、どうしてでしょう。 叶わなかった未来にまた胸に僅かな痛みを覚えてしまう。 布団に仰向けになった私は、天井の木目に「おやすみなさい」と呟きました。  チリリッ、チリリッ   秋の虫の合唱。 一般的にはそう言われる風情あるこんな声ひとつも、私にはどこか悲しく、寂し気で。   冷たく、無慈悲に流れてしまう時間の波に、ゆっくりたゆたい、飲まれるように。 眠りに落ちていきました。
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