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古びた木の枠のドアを引くと、カランコロンとカウベルの音が鳴った。どこか懐かしい音色で。
「いらっしゃいませ」
低い男性の声が迎えてくれる。間延びするぐらいゆったりした温かい感じの声だ。
左手にカウンターがあった。他に窓際などに3,4卓のテーブル席もあったけど、二人連れが座っていたりして一人では申し訳がないから、カウンターに向かった。
カウンターは奥行きのある分厚い一枚板のテーブルに高めの椅子が4つだけ寄せてある。
その奥は一段高くなった台に、コーヒーサイフォンが3つ、並んでいた。
その向こう側から、30代ぐらいの男の人がこちらに軽く会釈する。前髪が長めのストレートヘアで、鼻筋の通った彫りの深い顔立ち。
印象的なのは二重なのに切れ長で、目じりが上がり気味の目だった。
眉尻も上がっているから、睨みのきいた鋭い顔立ちに見えそうなのに、不思議と表情は柔らかい。
決して微笑んでいるわけではないのに。
「いらっしゃい。どうぞ」
目線で促されるまま、カウンターの右端、壁際の椅子によじ登るようにして座った。
カウンター越しに長い腕をのばして、その人は水の入ったグラスを僕の前に置いた。
骨ばった手は指が長い。
つい、じっとその手の動きを見つめてしまう。
「ご注文は?」
「あ、じゃ、ブレンドをお願いします」
壁に掲示されたメニューの、一番上のをとっさに選んで頼んでいた。
手を見つめていたのを感づかれたような気がして。
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