◇◇◇◇◇3. おもちゃのチャチャチャ◇◇◇◇◇

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あの頃洋くんがわたしに頻繁に使っていたセリフを、わたしは今、宇城くんからもかけられている。 だから、それに期待するべき意味が全くないことをよく知っている。 「えらくさわやかな野郎だな」  宇城くんは、褒め言葉とは裏腹の、珍しく皮肉っぽい口調で言い放つ。 そして顔をしかめながらママチャリのペダルに足をかける。 「そうだね」  わたしの言い方にも毒が含まれちゃったんじゃないかと心配になる。 特定の男子に対する底冷えのするような感情を、宇城くんにだけは見せたくなかった。  わたしたち二人は、公道から宇城家の別荘への小道を入った。 そこにある物置小屋にパンクした自転車をしまい、また自転車の二人乗りをして岐路に着く。  後部座席で登山用のリュックを背負い、宇城くんの腰につかまる。  ……できれば、今日一日だけは、二人っきりで遊んだ幸せな記憶のまま終えたかったな。 宇城くんにとっては、洋くんに会ったことなんかとるにたりないことだと知っている。  でも、わたしにとってはそうはいかない。
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