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午後の陽ざしに桜が輝いて見える。
桜が
桜?
何か変だ。
美しいはずの桜に何故かざわざわとした嫌悪感を感じる。
恐る恐る桜の木に近寄った。
下に伸びた桜の枝についている花に目をやった途端、私は吐きそうになった。
全ての花に苦痛に喘ぐ人の顔が付いていた。
慌てて上を見る。無数の顔がこちらを見ている。
パクパクと歪んだ口を動かし、小さな呻き声を上げながら。
私はただただ走った。耳を塞ぎ、目を地面にだけ向けて桜並木を走り抜けた。ほっとした瞬間に力が抜けて座り込んでしまった。だが目の前に咲いている野の花にも全て人の顔が付いている。
それからどうやって帰ってきたのかあまり良く覚えてはいない。花の絵でさえ人の顔に見えるのだ。
部屋の中にあった造花を捨て、花柄の服を捨て、テレビをつけると桜が映っていた。うにうにと動く顔。急いでテレビを消す。
どうして?
私は絵は見なかったのに。そして、あ、と思った。
村上さんもあの絵は見ていない。
でも、村上さんは花柄の服を嫌がった。
そういうことか。見てはいけなかったのは絵ではない。あの紙そのものだったのだ。
『花子 3歳』、「ハナコサン」。
身体が震えてきた。どうしようどうしよう。
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