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そう言い八重歯を覗かせる犬塚くんの顔がどこか寂しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。
人の感情に鈍感な俺はこの答えで正解なんだと思った。
……そう、思っていた。
家まで送ってもらい、今日は安静にするようにと犬塚くんに言われ帰っていった。
もう少し一緒に喋りたかったなと思いながら冷たい部屋の隅に座る。
痛々しい包帯が巻かれた手足を眺めて床に寝転がる。
夏が近いといっても梅雨の季節でやや肌寒い。
猫のように丸まり瞳を閉じる。
俺は夢を見た。
夢の中で俺は犬塚くんと恋人同士だった。
俺が暗く落ち込んでいても犬塚くんは太陽のように明るく笑って癒してくれた。
「好きだよ、佐助」
「俺も…好き、郁人」
普段は呼ばない呼び方をして、愛を確かめ合った。
夢の中の俺達は自然に笑い幸せだった。
とても眩しくて、とても苦しい…
こんな未来、絶対ないと分かってるから余計に苦しくなり…目を覚ました。
頬が濡れていて目を腕で隠す。
これが恋愛感情なのだと、気付かされた…叶う筈がない奇跡のような恋に…
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