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そしてリビングに戻ると、恐ろしい程の私に対する叱咤激励が飛び交っていた。
「……そりゃ、重いって言われるわよ。あんたは」
「本当、学習能力無し。ちょっとは学べよ」
「彼氏だけ、友達だけにまとわりつくんじゃなくて、もっといろんな人と関わったり、自分磨きでもしなさい」
自分らも彼氏がいないくせに、ずばずばと言われる。それでも、その言葉がなんだか心地いい。はい、承知しましたとひとつひとつに感謝の返事をしながら、私はケーキを味わった。みんなはワンカットずつを食べ、私は一人で残りの六カットのケーキをいただいた。
そのとき、不意に玄関のドアがガチャリと鳴った。
このタイミングで帰ってくるのは、あの人しかいない。思ったより早く仕事が片付いたのだろう。
妊婦だというのに甲斐甲斐しくみんなのグラスにシャンパンを注いでいるあずちゃんを見る。あずちゃんの視線はグラスではなく玄関の方を向いており、嬉しげな様子を隠せずにいた。
「おお、やってるなあ」
「お邪魔してまあす」
兄貴が煙草臭い上着と鞄を放り投げながら、リビングへやってくる。あずちゃんはしずしずとそれを拾うと、寝室へ片付けにいった。兄貴も兄貴で、私とちょっとだけ似て無遠慮だと思う。
でも、きっと自分の仕事状況と、あずちゃんの寂しさを思って今日のパーティーを許可してくれたのだろう。やっぱり兄貴は優しいのだ。
兄貴はネクタイを外しながら私の方をじろりと見た。その視線を私のケーキの皿に落とし、はあ、とため息をつく。
「お前、またこんなに食って……俺は休日ジムに行くから体形保ってるけどな、お前は駄目だぞ。ほらそこに体重計あるから乗ってみろ」
「乗りません、乗りません。今夜は」
私は最後のケーキの一欠片を口に運んだ。
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