ワン・ホール

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  「……今日くらい、早く帰ってきてって言わないの?」  テーブルに料理を並べ終え、あずちゃんが私用にシャンパンを開ける。泡がシュワシュワと湧き上がる様子をぼんやりと見ながら、私はつい聞いてしまった。  あずちゃんは少し考えた後、寂しげだけれど、やっぱり穏やかな表情で言葉を返す。 「……いいの。恭介の会社さ、大手の下請けの営業職だからよく無茶苦茶なこと言われるらしくてね。深夜残業も休日出勤も当たり前で、何時でもお構い無しに電話がかかってくるんだ。こんなの日常茶飯事。……舞ちゃんは恭介がいて寂しくないでしょって言ったけど、私、結婚しても結構ひとりぼっちで、本当は寂しいことばっかりだよ。ごめんね、舞ちゃんからしたら嫌味に聞こえるかもしれないけど」  私は首を振る。 「……でもね、私、寂しくないの。だってね」  あずちゃんがそこまで言いかけた瞬間、玄関のドアベルが鳴った。  
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