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春
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは」
「初めまして、かしら」
「そうね。はじめまして」
「どうしたの? 悲しそうな顔をして」
「かなしい?」
「そう。貴女、とても悲しそう」
「かなしい、っていうのね」
「自分のことなのに分からないの?」
「じぶんのことだからわからないのよ」
「そういうものかしら」
「そういうものよ」
「不思議ね、名前は分からないのに感情はあるなんて」
「なまえ?」
「あらまあ。もしかして自分の名前もわからないの? 困ったわね」
「なまえはないとこまるものなの?」
「困るわ。だって、貴女のことを何て呼んだらいいかわからないじゃない」
「あなた、じゃだめなの?」
「駄目よ。だってそれは名前ではないもの」
「そう。でもわたしはあなたのなまえはしらないけれど、とてもきれいということはわかるわ」
「あらあら。ありがとう。嬉しいわ」
「きれいといわれたらうれしいの?」
「嬉しいわよ。そのために私はここにいるのだから」
「うつくしくあるためにここにいるの?」
「そうよ。いろんな人から綺麗ねと言われることが、私の役目」
「だからみんなこちらをみあげているの?」
「そうよ。お花見というの。楽しそうでしょう?」
「わらってる」
「そう」
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