1/5
前へ
/23ページ
次へ

「あら、いらっしゃい」 「こんにちは」 「初めまして、かしら」 「そうね。はじめまして」 「どうしたの? 悲しそうな顔をして」 「かなしい?」 「そう。貴女、とても悲しそう」 「かなしい、っていうのね」 「自分のことなのに分からないの?」 「じぶんのことだからわからないのよ」 「そういうものかしら」 「そういうものよ」 「不思議ね、名前は分からないのに感情はあるなんて」 「なまえ?」 「あらまあ。もしかして自分の名前もわからないの? 困ったわね」 「なまえはないとこまるものなの?」 「困るわ。だって、貴女のことを何て呼んだらいいかわからないじゃない」 「あなた、じゃだめなの?」 「駄目よ。だってそれは名前ではないもの」 「そう。でもわたしはあなたのなまえはしらないけれど、とてもきれいということはわかるわ」 「あらあら。ありがとう。嬉しいわ」 「きれいといわれたらうれしいの?」 「嬉しいわよ。そのために私はここにいるのだから」 「うつくしくあるためにここにいるの?」 「そうよ。いろんな人から綺麗ねと言われることが、私の役目」 「だからみんなこちらをみあげているの?」 「そうよ。お花見というの。楽しそうでしょう?」 「わらってる」 「そう」     
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加