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急な出張にも関わらず、亜以子は上手く処理してくれた。翌日以降のアポを他の日に回してくれと頭を下げたらしい。
本当に公私ともに俺の善きパートナーとなってくれていることに心から感謝した。
「データのすべてを見させていただきます。毎年上げている資料も持ってきてください。」
「分かりました。」
親父から連絡が来ていたのか、支社長は慌てることなく対応してくれた。
こういう仕事は基本的に嫌いだ。
粗探しをしている感覚だし、何より8桁以上の数字の列を並べて見ていると、だんだんどこか分からなくなるからという単純な理由だが。
しかし、経営に携わるなら避けて通れない道。
必死に探すこと5日目。
「…切手、だな。多分。」
『切手?』
「切手と収入印紙。備品を持ち出すより金になるし効果的だ。…チッ!せこいことしやがって。」
『なるほど。誰がやっているとか分かるか。』
「受領書、引き換え、入室記録、持ち出し記録を当たっていけば、いずれ辿り着くだろ。」
『よし、それを見つけて私に報告しなさい。』
「はい。」
『雅継、よくやった。』
「……ありがとうございます。」
滅多に聞かない親父からの誉め言葉。
親父というより社長からの言葉だな。
…なんか、嬉しい気がするのはなぜだろう。
この年になっても、誉め言葉ってのは嬉しいらしい。
しかし、数日間とはいえ、あの二人と離れて寝泊まりなんて寂しい。
こんな経験は初めてで、自分でもビックリしている。
…もう、俺の生活の一部なんだ。
改めて思った。
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