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しかし、出張後は仕事が溜まっているというのが常で。
何度も謝りのラインを送り、家に帰ったのは22時前だった。
「…ただいま。」
いつもだったら飛びついてくる二人の出迎えがないのを寂しく感じた。
煌太は既に夢の中だろう。
でも、亜以子は?
部屋の中へ歩を進めていく。
いつもだったら明るく照らされた屋内。
今日はナイトライトが淡く光っているだけの薄暗い部屋。
煌太の部屋を覗けば、可愛い姿が大きなベッドに横たわっていた。
起こさないようにその頬を優しく一撫で。
しかし、ここに寝ているかと思った人物が見当たらない。
亜以子の部屋、自分の部屋、ベッドルーム、どこを捜しても見つからない。
バスルームにもトイレにもいる様子はないし、ましてや煌太を一人残してどこかに行くなんてこともありえない。
「……!」
そうして考えながら数分、ゆらりとカーテンが動いた。
見れば僅かに窓の隙間がある。
カーテンをずらすと、バルコニーの一番奥の角、そこに小さく膝を抱えて震えている亜以子がいた。
…こいつはいつからこういう泣き方を覚えたんだろう。
煌太もそうだが、亜以子にも心の傷というものが深く刻まれている。
幼いころからの生い立ち、状況、それらを考えれば最近ではないはず。
しかし、俺がいるときは絶対にしない。…いや、させなかった。
俺がいなかったから、そして煌太に気づかれないように、そうせざるを得なかった。
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